実践!事業承継・自社株対策
投資育成制度の活用【実践!事業承継・自社株対策】第191号
2024.03.21
Q 私の会社の株式所有割合は、私が70%、先代の友人Xさんが30%です。
Xさんは、とても気のいい方で先代が資金繰りに困っているときに資金を出してくださったそうです。
会社が軌道にのってから、額面の10%の配当を支払っています。
とはいえ、私もそろそろ息子への事業承継や、Xさんに万一のことがあったとき、相続人の方のことは存じ上げていないため、不安が残るところです。
そこで、Xさんから株式を購入しようと考えており、Xさんは配当も十分もらったし、いくらでもいいとおっしゃっていただけています。
ただ、税法上、ある程度の価格で買い取らないといけないと認識しており、会社は順調なものの株式を買い取るほどの資金がありません。
どうしたらよいでしょうか。
A おっしゃる通り、ご相談者様がXさんの株式を買い取ろうとする場合、非上場株式を原則的評価(類似業種比準価額や純資産価額など)により、評価する必要があります。
そうなりますと、ご相談者様の手持ち資金がない場合、株式承継のための資金を、銀行から借りることも検討する必要があるかと思います。
また、資金という面では、ご相談者様の法人が買い取ることも検討の余地はあるのですが、自己株式の買取りには、みなし配当やみなし贈与など、複雑な問題が生じるため、一概にお勧めできるものではありません。
ご相談者様の状況を踏まえますと、投資育成制度の活用も、ご検討いただけるのかと思います。
投資育成制度とは、国の政策実施機関である中小企業投資育成会社が、中小企業を応援・支援するため、株式の一部を購入し、所有する制度です。
この制度によるご相談者様のメリットは、以下のとおりです。
1.継続的所有
投資育成制度を利用する場合、所有する会社は国の制度にのっとった法人であるため、ご相談者様の会社の株式を安定株主として、継続的に所有してもらえます。
この機関は、中小企業の育成を目的としていることから、いわゆる”ファンド”とは違い、早期上場への圧力や業績が悪化したときの経営者交代などを、求めてくるようなところではありません。
また、基本的に筆頭株主の意見に賛成するため、株主間での争いになることもありません。
2.後継者の育成
ご相談者様は、これから後継者様への事業承継もご検討中とのことでしたが、こちらの法人は後継者の育成にも力を入れています。
セミナー開催や、各社の後継者の方が一つの場所に集まり講習を受け、コミュニケーションが取れる場所などもあり、後継者様が貴重な経験もできるかと思います。
3.相続財産の増加抑制
30%部分は、第三者である法人が所有することになるため、今後、ご相談者様の会社が好調で株価が上がっても、その部分の相続税の心配は不要となります。
さて、次にデメリットですが、まずは、配当を支払う必要があることです。
出資を受けた額の6%~10%が目安となり、出資してもらうためには、配当金の額が最低でも60万円程度となることが目安になります。
この点、今までもXさんに配当金を支払われていたということで、あまり抵抗はないのではないでしょうか。
なお、買取価格は配当還元方式に近い価格になるイメージです。
Xさんは、価格にこだわっていらっしゃらないようなので、トラブルにはなりにくいかと思いますが、一定の配慮が必要と考えます。
また、絶対にできないわけでもないようですが、一度投資育成会社に売却した株の買戻しは、制度上考えられていないため、永続的にこの状況を受け入れられるかどうかは、ご検討された方がよろしいかと存じます。
《担当:税理士 青木 智美》
編集後記
ついに確定申告シーズンが終わりました。毎年のことではありますが、どうしてもバタバタになりますね。
とはいえ、おかげ様で皆様の申告を無事に終えられたことで、ほっとしております。
それと同時に花粉が猛威を振るいだしたように思います。
良くも悪くも春の訪れを感じております。
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