実践!事業承継・自社株対策
事業承継税制と相続時精算課税【実践!事業承継・自社株対策】第40号
2021.03.11
Q:事業承継税制を利用したいと思っていますが、同時に、相続時精算課税を使った方がよい、と言われています。これはどのような理由からでしょうか?
A:事業承継税制は、一定の要件を満たすことにより、承継した株式にかかる贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
ただし、あくまで納税猶予ですので、一定の要件を満たさなくなったり、取消事由に該当してしまうと、この猶予が取り消されてしまうことがあります。
そうなると、猶予されていた税金と利子税を、一括して納付しなければならなくなり、資金的に大きな負担がかかってきます。
この取消事由とは、たとえば、次のようなものがあります。
・同族で議決権の過半数を持たなくなった
・後継者が同族で筆頭でなくなった
・対象株式を譲渡した
・資産管理会社に該当した
・減資をした
・後継者の代表権や議決権が制限された
・吸収合併されて会社が消滅した
等々
その他にもありますが、どんな会社でも取り消されてしまう可能性がゼロ、ということはないでしょう。
贈与により事業承継税制を受ける場合には、取り消された時に、一括して贈与税を納付することになります。
そこで、万が一のときに支払う贈与税を、できるだけ少なくしておくことが肝要です。
贈与税の計算には、暦年課税と相続時精算課税があります。
事業承継税制により、贈与税の納税猶予を受ける際にも、この2つのいずれかを、選択することができます。
暦年課税は、その年に贈与を受けた金額の合計額から、基礎控除額110万円を控除した残額に、累進課税による税率を乗じて、税額を算出します。
累進課税ですから、金額が多くなればなるほど、税率が上がっていきます。
事業承継税制を使うくらいですから、高い株価の株式をまとまった株数、贈与するため、贈与価額は多くなるでしょう。
贈与税の累進税率は、4,500万円を超えると最高税率の55%となります。
事業承継税制を使うケースは、1億円以上の株価総額であることが多く、かなりの金額が最高税率の対象となってきます。
たとえば、2億円の株式の贈与を受けたときの税額は、次のようになります。
(2億円-110万円)×55%-640万円 ≒ 1億300万円
事業承継税制を使えば、この税額が猶予されるわけですが、取消事由に該当してしまった場合は、上記金額を納付しなければならないのです。
もう1つの相続時精算課税を使った場合は、どうでしょうか?
相続時精算課税は、60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択することができます。
相続時精算課税は、当事者間の累計贈与額が2,500万円までは、贈与税がかかりません。それを超えた場合には、超えた金額に一律20%の贈与税がかかることになります。
なお、相続時精算課税は読んで字のごとく、相続税の計算において精算することになっています。
贈与財産を、相続財産に加算して、相続税を計算し、支払った贈与税は控除する、という精算方法です。詳細は割愛します。
前置きが長くなりましたが、上記の例で、相続時精算課税を使った場合の税額は、次のようになります。
(2億円-2,500万円)×20% = 3,500万円
暦年課税が1億300万円でしたから、税額が1/3くらいになります。
万が一の場合はこれを支払うことを考えると、この差は大きいですね。
さらに、暦年課税は最高税率55%が適用されていますので、相続税の税率よりも高くなっている可能性が高いです。
贈与しないで、相続で取得して相続税を払っていた方が良かった、ということにもなりかねません。
(相続時には株価が、高くなっているかも知れませんが)
ということで、事業承継税制の適用を受ける場合は、相続時精算課税を使うことが、必須ではないでしょうか。
なお、特例事業承継税制の場合は、子や孫に対する贈与だけでなく、第三者を後継者とした贈与でも、年齢要件を満たしていれば、相続時精算課税を使うことができます。
編集後記
今日は東日本大震災から、ちょうど10年目の日ですね。
もう10年も経ったのかという気がします。恐らく皆様もあの日どこでどうしていたのか、ということを覚えていると思います。なかなか10年も前の日の行動を覚えていることなどないですが、やはり本当に特別の日だったと感じますね...今もコロナで大変ではありますが...
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